紅蓮館の殺人【感想】~炎に囲まれた館で起こる殺人事件~
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作品情報

作者:阿津川辰海
出版:講談社タイガ

粗筋

憧れの文豪に出会うため高校の合宿を抜け出す僕(田所)と自称探偵の葛城。

道中で小出、館で住人の貴之、文男、つばさに出会います。
しかし、どうにも全員が胡散臭い。明らかに何かを隠しているように思えました。

さて、道中で落雷による山火事が発生してしまったため、一同は館で救助を待つことになりました。

後から保険会社の飛鳥井と契約者の久我島が合流に、文豪と合わせると総勢9名に。
ひとまずは協力体制を取り、山火事の対策を練る一同。

ところが、合流の翌朝につばさの圧死体が発見されます。

これは事故か殺人か。もし殺人ならそれは誰なのか。
刻一刻と火の手が迫る中、互いを信用できない。そんな極限状態が続きます。

謎を解くべきと主張する葛城。生存を優先すべきと考える飛鳥井。
物語はいったいどういう結末を迎えるのでしょうか。

事件の評価【★★★】

館がからくり仕掛けという設定なので、トリックも中々に奇抜。
トリック重視の方も満足して読める出来栄えと言えます。

推理の評価【★★☆】

典型的な思わせぶり描写が多いのがネック。
推理小説の定番ではあるが、個人的にはこういうの好きじゃない。分かった情報はすぐ出せやと。

まあ、良くも悪くも王道の推理小説と言えるかもしれません。

独自性の評価【★★★】

時間制限の中で脱出と推理に奔走する緊張感

館に迫る炎。各章のタイトルに全焼までのタイムリミットが示されています。
推理にせよ脱出にせよ残された時間は多くありません。

だからこそ飛鳥井は推理を放棄して脱出を優先しているのかもしれません。

探偵の意義を考える画期的な切り口に脱帽

事件とは別に探偵の意義をひたすら突き詰める異色の推理小説でした。

本作では探偵役が葛城と飛鳥井の2人います。
飛鳥井は高校時代に探偵をしており、警察からも一目を置かれていました。

しかし、ある事件のせいで探偵業を引退。二度と推理をしない決意をしていたのです。
それが葛城には許せません。事件が起きたのならそれを解決するのが探偵の役目ではないか。

2人の考えは最後まで平行線のままです。
そして、結末はあまりにも救いのないものになったのです。

確かに謎は解けました。真犯人も見つけました。しかし、それだけだったのです。
果たして真実を知るべきだったのか。2人の探偵の思想が最後にぶつかります。

いわゆる探偵らしいのは葛城で、他の小説と似たようなキャラです。

結末の評価【★★★】

面白い。こういう切り口は初めて見たのか。

推理とは何のためにあるのか。
エンターテインメントとしてワクワクするようなものでないといけないのか。

否。断じてそれはありえない。人が死んでいる。悲しんでいる人もいる。
それを娯楽として楽しむのは人ではない。ハッピーエンドなんてあるわけがない。

探偵の罪を告発する飛鳥井の言葉が重いんだよなぁ。
やるせないラストを迎えますが、非常に考えさせられる作品だったなと。

まとめ

娯楽として推理する探偵への警告。
ただトリックを楽しむだけではないテーマに富んだ作品でした。

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