真夜中のマリオネットのネタバレ感想&考察【真犯人の目的は?】

医療ミステリーを書かせたら右に出るものはいない知念実希人の作品。
彼の作品は大団円になることは稀で、どこかしこりが残るラストを迎えます。

それが味であり、はまってしまうと抜け出せない魅力となっているわけですね。

さて、その中で本作は特に味わい深い。終わった後の脱力感が凄まじいというか、あんまりだよ・・・という感情になりました。

まごうことなき傑作。しかし、劇薬でもある。そんな本作のネタバレ考察をしていきます。

事件について

概要

猟奇的な殺人事件を行った「真夜中の解体魔」は死体をバラバラにし、身体の一部を持ち去っていました。被害者は4人。

被害者

安里千代(右足首から下)
村本咲子(子宮)
荒巻一輝(左手の薬指)
安里雪絵

雪絵の持ち去られた部位が分かりませんが、マスコミにバラバラ死体のことまでは話しておらず、模倣犯ではないとされています。

真相

容疑者として逮捕された石田涼介。彼こそが真夜中の解体魔でした。
しかし、実際に殺害したのは3人までで、雪絵の事件は模倣犯である警察官倉敷の仕業でした。

決定的な証拠が見つけられないことにしびれを切らして、雪絵と倉敷は事件をでっちあげたのです。

途中までは上手くいっていたのですが、操り人形と化した小松秋穂に阻まれて失敗に終わります。

かくして真犯人は何の罪も被ることなく、物語は幕を閉じました。

犯行動機

涼介が雪絵の事件まで逮捕されなかった理由として殺害した人物そのものに関心がなかったことが挙げられます。

千代は雪絵の母親であり、涼介と別れさせましたが、それ以外の接点はありません。
咲子と一輝に至っては面識すらなかったかもしれません。

では、なぜ殺したのか。

涼介が「特別な人」とみなした人間の拠り所だから。それを殺すことで「特別な人」を壊したかったのです。

生まれ持った悪である涼介は特別な人が絶望し壊れていく様に美しさを見出していました。
そのきっかけが母の自殺です。息子に裏切られて生気を失う母。その美しさに感動をした。

もっと見たい。見続けたい。そのための手段として彼は殺人に手を染めたのです。

安里千代を殺して、雪絵を壊し
咲子を殺して、倉敷を壊し
一輝を殺して、秋穂を壊しました。

厄介なのが彼に悪意はなく、むしろ好意しかない点です。彼が抱いた愛情に嘘偽りはないのです。

殺した人間と関連性はない。動機も歪。犯人特定が困難を極めるわけですな。

主人公の小松秋穂について

なぜ秋穂は荒唐無稽な推理をしたのか

推理小説を読んだ人ほど感じる秋穂のあんまりな推理。

完全に感情のままに美濃部を犯人と断定して動き出します。
物語の序盤は理性的に立ち回っていたので、そのギャップに面食らった人も多いでしょう。

そもそもが刑事で無いというのも理由の1つですが、涼介の疑いが晴れるなら誰が犯人でも構わない考えに陥った事が原因でしょう。

いつのまにか涼介を「犯人と断定する証拠探し」から「無実を証明するアリバイ探し」に変わっていますからね。

秋穂に施されたマインドコントロールを楽しむ物語

秋穂の杜撰な推理からも分かる通り、本作を推理小説と思わない方が良いでしょう。
ある種のヒューマンドラマ。操られた人間の末路を観察する作品と言っても良いかもしれません。

最後まで秋穂視点で物語が進みますが、彼女の視点で人物像は大きくねじ曲がります。

まずは涼介。最初こそ彼に憎しみを持っていた秋穂ですが、中盤以降は篭絡されます。
そこからは完全に彼のために動いており、行動も支離滅裂。理性が何度も警告を出すものの最後まで聞き入れることはありませんでした。

唯一の味方になりえた倉敷も最初から敵と認識しており、聞く耳を持ちません。

その後の行動も衝動的で、理性のある人間とは程遠い人物になり果てました。

言い換えれば、涼介を世話して全てを失った雪絵と完全に同じ動きを秋穂もしているのです。

本作の情報は全てがミスリード。秋穂によって捻じ曲げられた主観でしかありません。とてもではありませんが、推理小説にはなり得ないわけです。

どうすれば悲劇を回避できたのか

美濃部や倉敷、雪絵の友人など多くの人が涼介の危険性を警告していました。しかし、秋穂は真実に最後まで辿り着けなかった。
もう涼介と関わった時点で詰んでいるわけですが、敢えて言えば1つでも行動が変わっていれば結末も変わっていた思います。

読んでいて分かるんですが、割とご都合展開が続くんですよ。

  • 転院を防ぎ続け
  • 病院からの逃亡を成功させ
  • 優秀な新聞記者を仲間に引き入れ
  • 涼介のアリバイを証明し
  • 間違った真犯人が命を落とす

フィクションだからと言えばそれまでですが、かなりの綱渡りです。これを涼介が全て読んだとは思えません。
涼介としても秋穂の活躍は予想外だったでしょう。

涼介にとって何よりも大事なのは大切な人の絶望。それさえ見れれば目標は達成しています。
なので、秋穂を篭絡した時点で彼は満足しており、それ自体の達成は容易だったのは間違いありません。

無実の証明はあくまでオマケ。作中で「死刑まで時間があると」言ってますし、死ぬまでに秋穂の不幸を見られれば良かったのです。

要するに秋穂がもう少し無能だったら最悪の結末は防げた。あまりにも秋穂が優秀だったために起きた悲劇と言えるでしょう。

最後に

知念実希人作品の中でも異質なバッドエンド物語。
他の作品はなんやかんやで主人公は納得するんですけどね。本作はそうはなりません。

割と人を選ぶ作品ですが、非常に面白かったですね。

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