【血と灰の女王】堂島正という男の一生【ネタバレ】

佐神善を救った人間として、1巻~17巻まで描かれた男、堂島正。
彼の退場までが第1部と言ってよいほど存在感を放っていた人物でした。

ある意味で本作のもう1人の主人公と言っても過言ではありません。
今回はそんなヴァンパイア「ヒーロー」の生き様を振り返ってみたいと思います。

プロフィール

シスカの主治医であり、当時10歳の佐神善の手術も担当。

性格は温厚で感情をあまり表に出さないタイプ。
何もなければ順調に出世して、寿命を全うしていたかもしれません。

ヴァンパイア化への経緯と信念

ヴァンパイア詳細

名前:ヒーロー
能力:防御不可の剣、剣の遠隔操作も可能
D・ナイト:1回かぎりの復活

富士山の噴火で息子を失い、自身はヴァンパイア化しました。
そして、火事場泥棒の殺害をきっかけに自身をヒーローと称し、悪人の断罪を始めます。

立派な信念を掲げてはいますが、実際は息子を失った私怨を振りまいているだけ。
それは2巻17話でドミノに指摘され、自身も理解しています。

昼間は人を助け、夜は人を殺す。歪な生活を平静に続けるあたり彼も狂っていたのでしょう。

ただ、それでも少しは変わるはずという僅かな希望に縋っていたのです。

燦然党に加わった経緯

極論すれば「恐怖」が加入の動機。
どうあがいてもドミノか日ノ元に殺される状況になった堂島。

  • 殺すのは悪人に絞る
  • 対等な関係で構わない

提示された2つの条件を聞き、彼は日ノ元の軍門に下ることになります。
冷静に考えれば守られるはずのない約束。ただ、それでも何も為さずに死にたくない。

なまじ並みのヴァンパイアとしては最強クラスだったのも災いしました。

結果、か細いながらも守っていた信念さえも曲げ、彼の破滅が確定しました。

末路

信念を捻じ曲げた末に手に入れた真祖の心臓。全てを投げ捨て、見事に念願を果たしたのです。

しかし、理想なき彼が心臓を食らったところで、成れたのはヒーローに似ても似つかない化け物。
結局、彼の行動は全くの無意味でした。

そんな堂島を善が倒したのは唯一の救いだったのかもしれません。

なぜ最後までドミノ陣営に加われなかったのか

同じ日ノ元陣営でありながらドミノ派になれた七原との違い。

それは信念のために死ねるか。その一言に尽きます。七原にはそれができて、堂島はできませんでした。

本作はとにかく「信念」を重視しており、その有無で作中での扱いが天と地ほどの差があります。
日ノ元士郎にさえ啖呵を切った七原はまさに揺るがぬ信念を持っており、堂島と対極の存在だったと言えるでしょう。

信念に命をかけられない者には何の価値もない。

5巻で「生きるために日ノ元に下った」と堂島が説明した際のドミノの目が全てを物語っています。
冷めきった目は堂島を完全に見限っており、この段階でドミノ陣営への目は完全に断たれたのです。

似た境遇の霧島槙尾の末路が彼の未来を暗示していた

正義を目指し、正義に殺された女性。
堂島と非常に似た境遇をしており、その末路は空しいものでした。

  • 堂島同様に特撮ヒーローに憧れ、
  • 堂島同様に大切な人を失い、
  • 堂島同様に正義のために手段を選ばない。

しかし、その果てに得たものはありませんでした。
どんなに手を汚しても巨悪は消えません。自分のしたことに意味はなかったのです。

そして、それは堂島の同義である。
叶えられない理想、そのために信念を捻じ曲げ続ける人生の果てには破滅しかない。

彼女は堂島の結末を予見させる存在として、死の間際に堂島に消えない楔を打ち込みました。

世の為人の為だけに戦うのがヒーローですから

9巻87話(霧島槙尾)

彼女の殺害をきっかけに堂島のプライドはズタズタに引き裂かれていくことになるのです。

最後まで善とシスカの担当医として在り続けた

ヴァンパイアになってからの堂島は何も成すことは叶いませんでした。
しかし、人間だった頃の行いは確かに善とシスカの生き方を変えています。

堂島もその2人を最後まで忘れることができませんでした。
格下の善を最後まで殺せず、日ノ元家に乗り込む前はシスカに決別の電話をします。

担当患者は見守り続ける。本当に大切だった彼の信念が形となり、最後まで残ったと言えます。

最後に

運命に翻弄され続けた憐れなピエロとして描かれ続けた堂島。
しかし、彼が守った善は世界を救う存在となりました。

皮肉なことにヴァンパイアになる前から堂島はヒーローだったわけです。
彼の意思は今後も善を導いていくことでしょう。